【公演情報】

日付:2020年2月16日(日)
時間:14:30開場/15:00開演
会場:調布市グリーンホール・大ホール
演目:J. Massenet 『マノン』

全幕フランス語上演 日本語セリフ/日本語字幕付き
入場無料(カンパ制)/全席自由
※ご来場者数が座席数を超過した場合はご入場を制限させていただく場合がございます。予めご了承ください

総監督・指揮:山内亮輔
演出:南あかね
演出補佐:滑川拓・松本華佳
副指揮:伊藤悠貴
コンサートミストレス:平岩彩
合唱指揮:本荘悠亜

《キャスト》
Manon:衛藤樹
Chevalier des Grieux:中野雄介
Lescaut:兵藤直哉
Guillot:髙橋伽徳
De Brétigny:須田梁太
Comte des Grieux: 田中拓風
Poussette:門上莉子
Javotte:小池花歩
Rosette:岩舩利佳
L’Hôtelier:児山祥

東京大学歌劇団合唱団
東京大学歌劇団管弦楽団

《あらすじ》

  • 一幕

舞台はフランスのアミアン。ひとりの少女が馬車から降り立ち、気のいい兵士レスコーに出迎えられる。彼女はレスコーの従妹で、名をマノンといった。
マノンは家族が彼女を放り込むと決めた修道院に向かう途中で、レスコーはその道中の付き添い役だった。通りすがりの貴族ギヨーが彼女を一目で気に入り、金に任せて口説こうとするが相手にされない。
ところでマノンは修道院で人生を閉じるのが嫌で仕方なかった。もっといろんなものを見たい、知りたい、人生をまだ諦めたくないという気持ちを捨てられなかった。そんな彼女の前に伯爵家の息子デ・グリューが通りがかる。出会った瞬間、少年少女はふしぎに共鳴し、デ・グリューは彼女に魅入られた。家族に持て余され、修道院行きを決められたというマノンの境遇に心から同情した彼は自分の人生を使えと彼女に提案し、一緒にどこまででも逃げようと持ち掛ける。幸か不幸か、さきほどのギヨーがマノンを自分の邸宅に連れていくために用意した馬車が近くに準備されており、現実的な逃亡手段がそこにはあった。ためらっていたマノンもついに決断し、二人の子どもは手に手を取ってアミアンを去る。

  • 二幕

パリに駆け落ちし、ひっそり暮らしていた二人。デ・グリューはマノンを人生唯一の人と思い、結婚の許しを乞う手紙を父親に向けて書いていた。そこへ招かれざる客が襲来する。
ひとりはマノンの従兄レスコー。彼にしてみれば「従妹が男に連れ去られた」のであり、デ・グリューに対し、どういうつもりかと怒り狂っている。
そしてもう一人は、ギヨーといつもつるんでいる若い貴族のブレティニ。彼はデ・グリューの父親である伯爵と繋がっていた。伯爵は息子の勝手な行動と現状をいっさい許すつもりはなく、話し合いの余地なく彼を実家に連れ帰る心づもりだった。ブレティニはその協力者として、レスコーをマノンのところへ連れてくる手引きをしつつ、今晩中にデ・グリューを実家へ連れ去る手はずを整えていたのだった。
マノンにブレティニはこっそり声を掛け、今日がデ・グリューとの別れになる、望むなら自分の妾にして良い暮らしをさせてやると告げる。一人取り残されて野垂れ死ぬか知らない男に囲われるかという二択を迫られ、マノンは後者の選択肢に揺れる自分を自覚する。そうとも知らずデ・グリューは、マノンがいない人生に意味はないと繰り返す。とうとう玄関の扉を叩く音が聞こえ、デ・グリューは問答無用で連れ去られ、マノンは苦悶する。

  • 三幕一場

にぎやかな祭りがおこなわれている。そこへブレティニに伴われて現れたのは、彼の妾となったマノンだった。そうして生き延び、短い春である若さと美貌をもてはやされながら、彼女はその日その日を生きていた。いっぽうギヨーは、一度ならず二度までも、「見初めた女」であるマノンが自分のものにならないことにいらだちを募らせていた。
雑踏の中にマノンは覚えのある名前を聞き取る。「デグリュー」と聞こえた。果たしてそこに見えたのはデ・グリューの父親と(先日の事件で彼のおぼえもめでたくなった)ブレティニの話し込む姿だった。彼女はそこで初めて、自分と引き離されたデ・グリューのその後を知る。彼は世をはかなんで神父となり、僧職として一生を過ごしたがっているらしかった。別れた女性、つまりマノンのことは、随分苦しんだが、もう忘れたという。そして今は近くのサン・シュルピス教会で説教をしていると。
「忘れた」ということがマノンには信じられず、不安で、恐ろしく、そして許しがたかった。彼女はデ・グリューにどうしても会いたいと思った。自分を連れ出し、運命にいっしょに飛び込んだはずの彼はまだ自分とともにあるはずだと、そうでなければならないし、そうでなければ取り戻すと、マノンは衝動になかば突き動かされて単身サン・シュルピス教会へ向かった。

  • 三幕二場

サン・シュルピス教会の前で女性信徒たちがはしゃいでいる。説教を担当した神父が若くてかっこよかったからだ。その若くてかっこいい神父ことデ・グリューは顔を見に来た父親と相対していたが、その表情は曇っていた。
父親が自分の将来の選択に否定的なのは明らかだった。父の望みは息子がまともな貴族の男として家に仕え、まともに家を存続させることであり、いくら信心深いことが一般に美徳と言っても出家までされたら困ると思っているのがデ・グリューにはよくわかった。
言うだけ言って父が去ったのち、デ・グリューは一人でいる。つらいことは忘れてしまいたかった。なによりつらいのは、何も言ってくれずに別れとなり、いまは違う男のところにいるらしいマノンの記憶だった。
そこへマノンが駆け込んでくる。デ・グリューは混乱の極致に突き落とされた。二人とも怯えていた。許す許さないの押し問答が繰り広げられ、デ・グリューは懸命に目の前の愛する人間を拒絶するが、段々と矜持も虚勢も崩れていく。「あなたが愛したマノンはもういないの?ここにいるのはマノンじゃないの?」と問われたのを最後についに崩れ落ち、二人はまた共にあることを選ぶ。

  • 四幕

ふたたび駆け落ちした二人。しかし破綻は目前だった。誰からの支援も最早望めず、どんどんお金が無くなり追い詰められていった。
そんな中、マノンが助けを求めたのは従兄レスコーだった。レスコーはギャンブルでお金を手に入れることを提案し、なじみの賭博場にふたりで来るように言う。
しかしそこに待ち受けていたのは、レスコーでさえ全容を知らぬ、張り巡らされた罠だった。すべては、破滅に向かいその恥がデ・グリュー家にさえ害を及ぼしかねないマノンとデ・グリューを今度こそ引き剥がすため。伯爵(父親)を中心に、彼と繋がったブレティニやギヨー、そして彼らを介してレスコーが動いていたのだ。
賭博場に連れてこられたデ・グリューは、ギャンブルに手を染めることをいやがるが、マノンに睨まれ、腹をくくるよりほかなくなる。彼に挑んできたのは、マノンをものにできなかった屈辱と怒りを晴らしたいあのギヨーだった。ふたりは勝負を始めるが、様子がおかしい。不自然にデ・グリューが勝ち続けるのだ。雇われのイカサマ師たちの仕業だった。ギヨーはデ・グリューにイカサマの疑いをかけペテン師と罵り、マノンに「復讐してやる」と告げて立ち去る。間もなくして、ギヨーに率いられて警察が賭博場に踏み込んでくる。デ・グリューとマノンを逮捕せよというのだ。
逆上したデ・グリューの目の前に今度は伯爵が現れ、彼を打ちのめす。
慈悲を乞うことにもはや意味はなく、マノンとデ・グリューは引き裂かれ、連行されていく。

  • 五幕

デ・グリューは父親の一声ですぐに釈放されたが、マノンは囚われたままだった。
ここまでの事態になるとは思わずマノンを助けたがっているレスコーにデ・グリューは声を掛けて手を組み、マノンを武力で奪還しようとするが、人員が集まらない。犬死してもいいから特攻させてくれ、ここで死んだらマノンのために死ねたことになると叫ぶデ・グリューをレスコーは押しとどめ、交渉の末にマノンとデ・グリューの対面の機会を設けることに成功する。
ようやく会えたマノンは、自らが受けた恥辱と、デ・グリューの人生と心に与えたであろう打撃を思って打ちのめされていた。彼女は自らの人生が決定的に行き詰ったことを理解しており、生への意欲を完全になくし、死に向かおうとしていた。
太陽が地平線を撫で、赤く染まる空の下で、デ・グリューは必死で一緒に行こう、置いていかないでくれ、と呼びかける。マノンは「私の人生はこうなるよりほかなかった」という。もう生きていく場所はこの世にはなかった。すべての声が途切れる。愛のモチーフだけが、世界への餞別のように、最後に聞こえる旋律である。

(文責:南あかね)